アメリカのベネズエラ侵攻と国際法・国際秩序を無視する「MAGAトランプ2.0」の行動原理【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第5回】 ニヒリズムの2(20/21)世紀の四半世紀が過ぎて
4.属国日本から見たトランプ
日本はアメリカの属国であった。即ち第二次世界大戦の敗戦後のアメリカ主導の軍事占領の終結後も、引き続き全土に米軍基地が残され、日米安全保障条約を通じて核保有国アメリカの「核の傘」に庇護されているからである。同じ敗戦国であってもドイツとイタリアが軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)のメンバーとして集団的自衛体制を採用しているのに対し、日本は憲法で戦力を放棄し安保条約で自国の安全保障をアメリカに一任しているからである。日本を「アメリカの属国」と呼ぶ所以である。しかし「MAGAトランプ(トランプ2.0)政権」によって、日本の地位は宗主国アメリカの家父長主義的庇護の下にある属国から「戦略的緩衝国家」に変化した[5]。
2024年のベネズエラ大統領選挙以来のアメリカとマドゥロ大統領との確執、21世紀のベネズエラと米中露の関係についてはアジア経済研究所の主任研究員坂口亜紀の研究がある。坂口によるとベネズエラ危機は、国内の権力機関を掌握するマドゥロ政権と反政府派の対立が長期化し、国際社会も米国・EUなど(反政府派支持)と中国・ロシア(マドゥロ支持)に分断されてきた。米国は政権ごとに名目を変えつつ制裁を段階的に拡大し、他方で中露は外交・経済面から政権を支え、膠着を強めた。2024年選挙後は弾圧が激化し、民主化闘争の象徴マリア・コリーナ・マチャドがノーベル平和賞を受賞する一方、2025年末にはトランプ政権が「国際テロ組織」掃討を掲げて艦隊展開など軍事圧力を急増させ、軍事行動の切迫が危機を増幅させていた[6]。

国際社会が米国・EUなど(反政府派支持)と中国・ロシア(マドゥロ支持)に分断されており、日本も米国に追随して反政府派を支持している。ベネズエラでは大統領を選任する機関は立法府、行政府、司法府から独立した国家選挙評議会であるが、ベネズエラの国家選挙評議会の認定したマドゥロ大統領を、アメリカは承認しておらず、日本もそれに追随している[7]。イスラーム地域研究者として、ムスリム諸国の選挙結果の合法性も、法制自体の正当性も全く信じていないが、公共的なコミュニケーションの場では領域国民主権国家システムの習律に従って、その国の法の定める職名を用いる。本稿でもマドゥロを大統領と呼ぶのも同じ理由である。しかしトランプの論理では、マドゥロは大統領ではなく麻薬や武器の密輸に関与した犯罪者であり、デルタフォースを派兵したのは一国の政府に戦争を仕掛けたのではなく、犯罪者の逮捕ということになる。しかし米国でも野党民主党の議員の殆どはトランプの行動を戦争とみなし議会の承認を得なかったことを批判している[8]。
一方で共和党はトランプを支持しており、メディアでも『ウォールストリートジャーナル』紙の社説はトランプによるマドゥロ拘束を「国際法違反」と非難する国連のグテレス事務総長、欧州諸国、中国、ロシア、ハマスまで含む反応を挙げ、国際法がならず者政権の盾に堕していると批判する。2024年選挙で選ばれたエドムンド・ゴンサレスの同意やアメリカの自衛権、ヒズボラやキューバ軍の介入を考慮せずに、他国の主権を犯す武力の行使、武力による威嚇を禁ずる国連憲章2条4項をトランプのベネズエラ侵攻に適用するのは欺瞞だというのである。ロシアのプーチン、中国の習近平が国際法を守っておらず、安保理やICCが機能不全に陥っている以上、自由世界を守る実効的手段は米国の軍事的抑止力のみであり、トランプの軍事作戦は侵略とは本質的に異なるというのである。
注 [5] 日本が属国であることについては、拙稿「カリフ制、“帝国日本”の解体と敵国条項(3)タウヒード唯一神道宗教地政学研究所メルマガ《時評》連載第3回」2025年12月12日付『note タウヒード唯一神道・宗教地政学研究所』[2章:2.属国日本のポジショントーク]、属国から戦略的緩衝国への移行については、中田考“台湾有事が起きてもアメリカは助けてくれない…イスラム法学者の世界的権威・中田考「高市首相はトランプに戦略的に利用される」”2025年11月20日付『Minkabuマガジン』[3.高市外交のアメリカ重視][4.MAGAトランプの「G2」的世界観と日本]参照。 [6] 坂口亜紀「ノーベル平和賞受賞の栄光と米国トランプ政権の軍事圧力に揺れるベネズエラ」2025年12月『IDE スクエア』(アジア経済研究所)1-11頁、坂口亜紀「ベネズエラをめぐる大国の政策対応と思惑 -米国・中国・ロシア」『ラテンアメリカ・レポート』Vol.38、No.2、48-60頁参照。 [7] Cf., “Maduro declared winner in Venezuela's presidential election, opposition contests results”, PBS(AP), 2024/7/29. [8] Cf., Sahil Kapur, Frank Thorp V & Kristen Welker, “Some lawmakers criticize Trump's attack in Venezuela, fearing a costly new war”, NBC News, 2026/1/4.
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(中略)
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(中略)
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<著者略歴>
高市早苗(たかいち・さなえ)
1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙に奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年、第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長に女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。
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